泡沫眼角-ウタカタメカド-


「あいつは、麻薬の販売をしたいと言い出して来たんだ。ウチはそっちは扱わない主義だったんだが、上手くやるって言い張るもんだから試験的にやらせてみたんだ」

「ほう?」

「上手くいったのなんの。売り上げは一気に跳ねあがり、上々だった」

川井はすばやくペンを走らせる。
こんなに喜んでるけど、この人は本当に怒っているんだろうか。
そんな疑問が頭を掠める。


「それがそのうち額が合わなくなってきた。初めは素人にばら撒いている分だと思った。それくらいわずかな誤差だった」

「それが、そうではなかったと?」

天城は大きく頷いた。
狸翠が身を乗り出してきたことで調子がよくなってきたのか、身振りもついて狸翠を指差す。

「その通りだ。見過ごせる額じゃなくなってきてな。秘密裏に奴が捌いてる麻薬を入手した。するとそこにあったのはウチの名前じゃなかった」


天城が急激に声を落とすので、川井も身を出さざるを得なくなる。

別の名前──川井はそれに心当たりがあった。
狸翠に視線を送ると、彼も確信を持って頷く。


「その名は──黒蜜会とあった」

やっぱり。
今度はちゃんと口の中で囁いた。

横目で見ると、狸の目の色が変わっていた。

「詳しく聞かせてくれ」

「おうおう、焦るな」

天城はもう、熱心な聞き手の存在に大きく気をよくしていた。

「随分と食いつくじゃねえの相棒?」

「奴らとはなかなか因縁があるんだよ」


だから、さっさと話せ。
表には出していないがそう言いたいのがはっきり伝わってくる。

天城は、背中を椅子に預けた。


「ウチの調べじゃ、金子が猫ババした金は全てそっちに流れてる。さらにウチじゃ初めてなのにこんなに利益があったのは奴がそれに手馴れてた。捌く場所はそっちからポイントを指定されてたと考えてる」

狸翠は大きく息を呑んだ。

「そ、それじゃあ…」