泡沫眼角-ウタカタメカド-


『おっそい!! 何回コールしたと思ってんだこの野郎! さっさと出ろよな!』

──……えーと…これは、一体…?

開口一番に罵詈雑言。
おまけに相手の声は知らない男。

間違い電話である。

──どうしましょう…

言乃は話す術を持たない。
下手に切れば、ただでさえ怒っている相手に油を注ぐことになり、本来の電話の相手が被害をこうむることになってしまう。

途方に暮れていても一方的な会話は続く。

『とにかく今すぐ来てくれ! 現場は警察署のある駅前の歓楽街の路地裏! 有線だとなんとも言えないからすぐ俺の携帯にかけなおしてくれ!』

「でしたら、携帯電話で掛ければよかったのではないのでしょうか?」

口から出た本音。
電話の主の問題点を的確に突いているのだが、彼は気にした様子もなく続ける。

『今回はお前が一番乗りだからな! 早く来ればいっぱい捜査できるぜ! じゃあな!』

最後だけ得意そうな明るさをかまして、電話は切れた。
無機質な音を立てる携帯の画面を待受け画面に戻し、言乃はそれをベッドの脇に置いた。

「現場、捜査……何か事件でしょうか」

ぼんやりと見た外は、まだまだ夜の空気。
時折、窓の外をふわりと何かが飛んでいく。