ギギィィィ

バタン

翠「! 今の!」

【ああ、黄泉の扉が閉まってしまったようだね。翠、君がここに落ちたのを見たものはいるのかい?】

翠「ええ、ですが今は戦いの最中。彩華が…あ、彩華とは敵の名です。彩華が黄泉の亡者を吸収していたのを止めようとして逆に引き込まれてしまったので、もしかしたら私を助ける余裕は無いかもしれません。」

翠がそう言えば母様は【そう…】と困ったように頬に片手を当てため息を1つ。

【道理で亡者が騒がしい筈ね。しかし、その彩華とやら…手を出してはならぬものに手を出したわ。】

スッと顔を上に向けた母様の眼は鋭く、朧気に憶えている母様の陰陽師としてのそれだった。

翠「っくしゅ!」

ブルッと身体が震え、くしゃみが出る。流石は死者の世界。温かい風など感じず冷気(霊気)が満ちていて寒い。

【おや、やはり寒いのかい?僕らは生身の肉体が無いからわからないんだよ。】

翠「ええ、少し。それより早くここから出て彩華を止めなくては…」

翠は上を見上げる。感覚としてかなり堕ちてきた気がする。だが、まるで岩谷のようで登るにも足場が無い。