肩を震わすそいつに猿鶴は無言で近づき

ズドォン!

大【ガハッ!!】

地面が抉れるほど拳をそいつに叩き込んだ。

翠「毒…そんな…
『龍神酒』は!?誰か…」

白【無理だ。今の秋雅に『龍神酒』は強すぎる薬となる。……打つ手が無い…】

悔しげな声が翠の頭に響く。翠も目に涙を溜め唇を噛むが、治療の手は止めない。

秋「そんな…顔をするな…儂はお主に…涙を流して貰えるほど…お主に何か出来ていない…」

その言葉にブンブンと頭を振る。その拍子に溜まっていた涙が落ちてしまった。

翠「ジジ様は…私を育てて下さいました!怖いと…そう感じることも多かったけど…最後にはいつだって私を認めて下さって…!不器用ながらも、褒めて…くれ…!」

一度流れてしまった涙は後から後から瞳から溢れて止まらない。

そんな彼女の頬を震える手で拭う秋雅。その手は命を確実に失っていっているのか冷たくなってきていた。

秋「儂のために…涙を流すなら…誓っては…くれまいか…?必ず…彩華を倒すのじゃ…良いな…?」

ゲホッと咳き込むと大量の血を吐いた秋雅。

そんな秋雅に翠はコクコクと何度も頷く。

それを見届け秋雅は穏やかに笑い、目を閉じた。

それが最後に見せた秋雅の笑顔。

神木陰陽道 神木家第29代目当主 神木 秋雅 89歳 ここに死す。