花散らしの雨

「……桂」

「ん?」


「……全部わかってるんだね」


ああ、分かってる。




「桂……」

「……」

「たしかに桂の左手の絵はヘタだよ」

グサリ。

「なっんだおまえやっぱそう思ってるんじゃねーか!」

「そりゃそーよ!!スオウ ケイと比べたら月とスッポンよ!!」

「どっちも俺の絵だっつーの!!」

でかい声出したから、通りすがりの患者さんに見られた。


「そーよ……どっちも桂の絵なの」


美輪が、俯きながら口を開いた。


「うまいとか、ヘタとかかんけーないのよ。だってあたしは桂の絵を見てなんかいいなって思ったし、お兄ちゃんはスオウ ケイの桜見て感動したの」

「あ…」



……そうだ……忘れてた。

俺、この間一回それ、感じたじゃねーか。


でも……

「でも……やっぱショックなんだよ。右手は、あの桜の絵が描ける程の実力があったのに、もう……」


「リハビリするしないは、桂の自由だよ。のりこえたんだったら、あたしはそれでいいと思うし」


美輪はぱっと軒下から中庭へと飛び出した。

柔らかく日の光が下りる、中庭の芝生。


あの…桜の下みたいだ。




「でもね、桂、あたしは思うの。左手でも描こうとする…そこまで絵が好きな人が、右手がそのままでたえられるのかって!」

「…!」


美輪は笑う。


「桂はぜったいまた右手で描くよ!」



なんだ、この根拠の全くない意見は。



「美輪……なんとなく言ってるだろ」

「あっひどーい!美輪のよかんは当たるのよ!描け〜」

「予感じゃなくて念だろ」

そう言ったら美輪はまたぷくっと顔を膨らませた。

「ははは美輪ブサイクだな」

「失礼ねっ!!」



ああ、なんか俺は救われてるな……なんでかそう思った。

俺を咎める奴がいないからか?


……そうかもな。


けど、だから自分で進まなきゃならない。


右手をやった時も一人で乗り越えて、周りはそれを受け入れてくれた。



……美輪は?