花散らしの雨

「右手では描いてねーよ……」

「あれ…しないの?……ほら、リハビリ?とか……」


俺はぎこちない動きの右腕を持ち上げて、薄くそれを見下ろした。


「恐くて出来ねーんだよ」

「こわい?」


「リハビリしても、あの頃みたいに元通りになる保証なんて、ないから」

「……」

美輪は、黙って聞いてた。


「だから左手で描き始めたんだ。多少下手でも当然だから……そーいう言い訳出来るだろ?」

勿論左手で一から鉛筆を持つのはすげぇ難しかったし、持ちすぎて筋肉痛みたいなのにもなった。


俺もなんだか焦ってたんだ、あの頃。

でも、諦めてた。


左手に逃げてるってのも分かってた。


そんだけ左を使おうとするなら、右手を頑張ってリハビリすればいーじゃんとか、思った。

全部分かってるし、矛盾とか頑張り所がずれてるのも知ってた。


「けど……無理だった」


立ち向かえなかった。

手術して、動かなくなった右手に。


「俺は、左手で頑張る事の“逃げてるって思い”を、乗り越えたんだ」


ノリコエタ。


「のりこえた………」


復唱した、美輪。


「それは…一人で?」


「うん」



「一人で……のりこえたんだ……」




雨が、ゆるくなってきた気がする。


空を仰ぐと灰色の雲が移動して、青空が垣間見えていた。