花散らしの雨

ぽつりと、額に水滴が当たった。


「雨…?」

見上げると、サラサラと細かい雨が降っている。

「雨降るような感じじゃないだろ…」

俺は病院の中庭に出て来ていた。
ほんとは病院から出たかったんだけど、ふらふらしてたらこんな所に……

広く敷かれた芝生があって、緑の木々も植えられている。
ベンチもあり人も居た中庭だが、この前触れのない雨に皆オロオロしていた。

空は曇り。
雨雲とは到底思えない軽い色をした雲が、ゆっくり流れている。

にわか雨…か?


「桂!!!」


後ろから呼ぶ声。


なんか、殆ど叫びに近かったけど、美輪だとすぐ分かった。


「ごめんね!!!」


振り向いた瞬間頭をベコーって下げて美輪は謝った。

謝んの早…!


「まぁ、いいよ、俺も大人げなかったし」

気持ちも落ち着いていた俺はそう言った。
小学生相手に一喜一憂してるのは嫌だし。
それに“一応”乗り越えたハナシだから、許せる。


「桂、ケガしてたんだね、手……気づかなかった」

「はは」


俺は、あの日から一度も右手を動かしていない。
実は左手一本で日常生活を送ってた。



「聞く?ハナシ」

「…うん」

俺が尋ねると美和は小さく頷く。

細かな雨の中二人。

流石に冷えるとやばいし、俺は美輪に軒下に入る様促した。


「……まぁ、これと言って捻る話じゃないけどさ」

俺の髪の毛はしけって、前髪がうっとおしくなっている。


「高一の冬休みに、バイクと接触事故して右手がバキバキ」

「バ……」

美輪が俺の右手に思わず目線をやったのが分かったが…まぁブレザーで指しか見えない手ですけど。


「利き手が右でさ……おまえが知ってる桜の絵も高校入り立ての時描いたのね。倉敷にも褒められた…賞も取ったし」

「桂……」


「けどこんなんになって。サッカー部のヘルプは入れても体育でベースボールは出来ねぇ、みたいな」


空を見上げると明るい灰色の雲。

と、雨。


「でも……桂、それでも絵描くの……やめなかったの、えらいじゃん」


美輪はそう言ってくれたけど、俺は否定した。