花散らしの雨

久しぶりにここへ来ると、ツンとくる油の匂いが感じられる。

この独特の香りと広い木の机、木の椅子がまさに美術室。

「あっ先輩こんにちは」

新二年になった後輩の女子が画材を取りに来ていた。

「おう、久しぶり」

簡単な挨拶をし、俺は隣接した美術資料室への扉を開け、入る。

少しホコリ臭いそこには、その名の通り美術の資料や像、過去の作品等が敷き詰められていた。


「…あった」

沢山の作品の中から、ちょっとした額に入った一枚の絵を見つける。

赤と白のリボンで形作られた花が、小さな長方形の紙を額の角に貼り止めていた。
紙には『優秀賞』と書かれている。

とても綺麗な…今の俺からしてみれば…だけど……

キャンパスには一面の桜が描(えが)かれていた。


丁寧で、繊細で、優しい…そんな絵だ。



「……」

この絵を見て何がしたかったとか、何を思いたかったわけじゃない。

……ただ…


微かに溜め息が出た。












桜の下。いつもの場所。

スケッチブックを広げて、もう一度溜め息。

「あー…見なきゃ良かったかな。でも久々に見たくなったんだよなー」

声に出して、ウサを晴らす。

『それはそれでしょ』


美輪が言ってくれた言葉が頭に浮かんだ。


…それはそれ…


俺は、この絵を描きたいんだ……それでいいよな。



「桂」


…!

この声。


「美輪?!」


顔を上げると、幼くもあの整った顔が目に入る。

桜の木の下に美輪が佇んでいた。