花散らしの雨

「ねぇ、桂」

今日も昼飯用に買ってやったあんパンから美輪は顔を覗かせる。


「なんでここの桜描いてるの?」


「なんでって……」


答えないのもなんだかなぁと思ったので、俺は茶髪の頭を掻きながら口を開いた。


「別に…ただ好きなんだよ」


ここの桜が。

入学した時から思ってた。

綺麗なんだ。

凄く。


この小さな小道の脇に咲く、空一面の桜が。



「他に理由なんてねーよ」


「ふぅん」


美輪の返事は、それだけ。



「桂って何年生?」

「次高三」

「……いっしょだ」


美輪が呟いた言葉が何を指しているのか分からなかった。

「は?何が一緒って?」

「なんでもなーい」
横にぴったりくっつく美輪の存在を諦める事にして、昼飯を食った俺は再びスケッチブックを膝に乗せる。


「進んだよね!すごいすごい!」

美輪はほんのり桜色に染まり出しているスケッチブックを見て楽しそうだ。

朝のうちに少しベースを塗ったので、やっと桜らしくなってきた。


「桂ってさー」

絵筆を取る俺を覗き込む様にして美輪はこんな事を言った。


「絵楽しんでるよね」



……。

それはどういう…

この粗削りな桜見て、俺の絵を描く嬉々とした感じが伝わったのか?



「…あぁ、楽しんでるよ」


顔はスケッチブックに向いていたけど、俺は少し嬉しくてニヤリ、となってた。




絵を描いてる時はほんと無心になれるっていうか、それだけを考えてられるからいい。

やっぱ、どんなになっても俺は絵を描くのをやめられない。

大分左手にも慣れた……




そんな、4月3日。