花散らしの雨

「桂今日もかみの毛きまってるねっ」

そう言って苦もなく美輪は俺の横に下りると、今日はまず俺の顔を覗き込んだ。


「?? 何だよ」

「昨日あたしはしゃいじゃって、桂の顔じっくり見てなかったから」

はしゃいでたのかあれ。

「…おまえチビのくせにキレーな顔してるからいいよな」

「桂ってどっかスナオじゃないわね」

「そーだね」

お互い面と向き合いながら俺は笑ったが美輪はむぅ、とした。

「…桂っていまどきって感じでけっこーかっこいいのに、絵描くんだね」

俺の横に体育座りをした美輪はぽつりと言う。

「見た目と俺の趣味はかんけーねーだろ。美輪こそそんなヒラヒラしたかっこで木登りしてるし」

スケッチブックに鉛筆を走らせながら俺も言う。


「いいじゃない、かっことやりたい事はかんけーないわっ」

いや、関係はあると思うぞ。


「てか美輪のやりたい事って何?木登り?」


てっきりすぐ「妖精だから木登りじゃない!」とか返ってくると思ったが、意外にも美輪は少し黙った。




「感じる事と、考える事、よ」



「?」

間を置いて美輪は返答してくれたが、俺には全く意味が分からなかった。


どういう事だと掘り下げると、強めにはぐらかされる。

「いいの!さっ桂続き描いて!」


スケッチブックを指差す。


桜は半分ほど下描きが完成している。



「ねぇ桂」


美輪が口を開いた。

「その絵、出来上がったらほしいな」




「え」


「その絵」



俺はスケッチブックと桜を行き来していた目を止めて美輪を見る。

茶色の瞳がランランとしていた……

「ちょーだいっ」


まぁ…いいけど。


「でもおまえが貰ってもどうするんだよ、桜の木に引っ掛けとくつもりか?」

冗談っぽくそう言うと、美輪も冗談っぽく返して来た。


「あら、絵はだれかに見てもらうためにあるんじゃないの?」

…そうだけど、さ。

「しゃーねぇな、完成したらやるよ」


「やったぁ!!」



それが4月2日の、美輪とした約束。