「っ、七海……」


ユイちゃんの表情が一瞬にして険しくなり、何かを守るように前に出た。


七海、と呼ばれた生徒は困ったように眉をひそめて、大丈夫だと言った。


「どーだか」


「僕は一応生徒会長としての役目を果たしたいだけなんだけどなぁ」


「……、ん」


ユイちゃんは渋々私の隣に戻ってくる。そこで七海さんの目が私に向けられた。


「歩きながらパンは食べないようにね。ダメだよ、危ないしお行儀が悪い」


「あ………。すみません、うっかりしてました」


「うん。次からは気を付けてね」


「はーい。えと…貴方は?」


忠告を聞き入れた後、私は首を傾けた。先ほど、生徒会長という単語が聞こえたが。


「あ、もしかして今日転入してきた子だっけ?それなら僕のこと知らないよね。初めまして、生徒会長の七海遊斗です。3-2で隣のクラスだよ」


「なるほど、七海さんは生徒会長さんですか。遠野時雨です、3-1です。よろしくお願いします」


「何か困ったことがあったら僕に言ってね。力になれるかもしれないから」


柔らかく微笑んだ七海さんに、ユイちゃんが腕を組んで冷たい目を向ける。


「この子にはクラスメートだけで十分ですけど?七海」


「だからそんなに殺意むき出しにしないでってば…。それじゃあね。くれぐれも、歩きながらパン食べちゃダメだよ?」


「あは……さーせんした」


「それじゃ、失礼」


七海さんが居なくなると、ユイちゃんは腕組みを解いて、私の袖をつかむ。あんまりいい雰囲気じゃなかったから、ユイちゃんはきっと七海さんが好きではないんだろう。


なにか、あったのかな。気になるけど初日でそこまで踏み込んじゃいけない気がして、私は尋ねるのを止めた。


「あーお腹すいたよ!ほら教室戻ろう!」


「アンタさっき食べてたでしょ!」


「それはそれ、これはこれ。さーレッツゴー」



こうして、私の転入一日目は静かに終わっ――――て欲しかった。