いや、正確には、"触れようと"した。





「馬鹿者。お前はこちら側だ。早く来い」


それを聞いた瞬間、抗えようもない力が身体に働いた。頭がぼうっとして、身体が自分のものじゃないみたいに方向をかえ、しっかりとした足取りで満足そうな顔してる神城へと向かう。


(嘘、でしょう!?)


よりにもよって魔王の協力者である。この手で世界を滅ぼせと、滅ぼすための手伝いをしろと言うのか!


伸ばした手は、神城によって強く引っ張られ、気が付けば腕の中に収まっていた。


「なっ、ななな……!!」


「そういうことだ、遊斗。こいつは俺のモンなんだよ」


「くっ……仕方がありませんね。しかし彼女の心は変わることはないでしょう」


「どうせこいつも、人間の定規で図られた枠でしか物事を捉えられない哀れな生き物だ。…仕方あるまい」


よしよし、と頭を撫でられる。頭を降って振り払おうとしたけど、何故か言われた言葉が無性に気になって動くに動けなかった。


「っ……離せぇ!この馬鹿者ッ!いつまでくっついてるつもりだ!!」


ドンッ、と神城を突き飛ばすと、ぜはぜはと呼吸を整えた。んだよ、と前髪をかきあげるその仕草が様になっていて、ドキリと心臓が跳ねる。


いやいや落ち着け私。あれは魔王だ、あれは魔王だ、あれは魔王だ………。


「なんだ。俺に惚れたか」


「殴るぞ魔王」


「やれるもんなら」


はんっ、と人を見下すように嗤い、ユイちゃんに結界をとくように命じた。


解除、とユイちゃんが手を合わせると、セピア色だった景色に、一瞬で色がついた。こういうのを見ると、ああ今のは嘘じゃなかったんだ、と思えてくる。


「今日はやる気が失せた。別の日に殺し合おうぜ?」


「っ…無駄な殺戮を……」


「優等生なカイチョーさまには刺激が強すぎたか?くくっ」


「言っていろ!」


吐き捨てるように言うと、七海さんは踵を返して歩きだした。