私は小さな笑いを零すと携帯を置いてお風呂へ向かった。
真っ白な入浴剤で不透明な湯船につかりながら、私はゆっくりと瞳を閉じた。
もう忘れる。
そう決めて、今の高校を受験したのだ。
何故、今になってこれ程鮮明に彼を思い出したのだろうか。
彼が、私の目の前に姿を現すとでも言うのだろうか。
そこまで考えて、私は今の考えをかき消す様に頭を振った。
何を馬鹿な事を……。
そもそも彼は私の存在なんて知らない。
私が……一方的に知っていただけ。
それだけなのだから。
ふっと、自嘲を零して、私は浴室を後にした。
雫の滴る長い髪にタオルを掛けて、水を飲もうと冷蔵庫を開ける。
脳裏に思い浮かべるのは、今まで考えていた氷之くんの事ではなく、最近距離が縮まったように思う鷹宮くんの事。

