「沢良木 涼太、だっけ。
アイツの名前を聞いた時、確かに昔のことを色々思い出した。
…だけど、“こんなところで言うことじゃねぇだろ”って思ったから、だからやり過ごそうとした。
でも内心動揺しまくりで。
そんな時にお前が聞いてくるから…、なんかこう、上手く返せなかったんだ」
……そっか。
水族館の楽しい雰囲気の中で言うことじゃないから…、だから龍輝さんは何も言わなかったんだ。
だけど私が聞いてしまったから、動揺していた龍輝さんを更に動揺させてしまったんだ。
「…沢良木先輩は俺の兄貴みたいな人で、すげー可愛がってもらってた。
あの人、元カノと同い年だからさ…、だから色んなこと相談して、いっぱいアドバイスしてもらってたな。
……先輩は俺よりも元カノのことを知ってて、元カノも先輩の話をすげー楽しそうにしてた。
今思えば、初めから元カノと先輩は好き同士だったのかもしれない」
壁に寄りかかった龍輝さんは、また天井を見上げて小さく笑った。
「…先輩とは何も話さないまま別れたけど…、でもまぁ、今も二人は一緒に居て幸せみたいだから、だからそれでいいよ。
過去のことをいつまでも言ったって仕方ないだろ?
そりゃあ時々は思い出すかもしれねーけど。でもさ…、」
「……でも…?」
頭に はてなマーク を浮かべる私を見て、龍輝さんがふっと微笑む。
「過去のことよりも、お前と一緒に生きてる“今”が大事だろ」
「…っ……」
ドキン と心臓が鳴るよりも速く、龍輝さんの唇が私の唇に触れた。



