「あれ…?ねぇ、琉生たちはどこ?」
少し先を歩いていたはずの琉生と奏汰がいつの間にかいなくなっていた。
「知らねぇよ、あいつらなんて」
「えッ!?ちょっと何それ、もしかしてはぐれちゃったってこと?」
「…そうなるな」
えぇ!?
ほんとにはぐれたの!?
「あんたちゃんと見てなさいよ!はぐれたの、あんたのせいなんだからね!!」
「また俺のせいかよ…」
「当たり前でしょ!」
とりあえず…
琉生に電話、ね…
「……」
…出ない。
この人混みの中、着信になんて気づかないか…
「カナも出ない」
はぁ…
あたしはどうするのよ!?
こいつと2人きり?
…冗談じゃない。
こんな奴と2人きりなんてごめんだわ!
琉生、奏汰…
2人で何してんのよ!!
…あの2人のことだからきっと金魚すくいとか射的とかで張り合ってるんだわ…
「とにかく探さなきゃ…」
めんどくさいけど。
琉生たちを探そうと速足で進もうとしたら…
ぐいッ…
繋いでいた手が引っ張った。
「ッにすんのよ!?」
危ないじゃない!
「行くな」
どきんッ…
「こんな人混みで見つかる訳ねぇだろ。探すだけ無駄だから」
これくらい考えれば分かるだろ、そう付け足してため息をつく篠宮 莉央。
何よ…
「ほんっと、ムカつく奴!!」
「は?」
さっき、なんであたしの心臓"どきんッ"って言ったのよ…
意味分かんない…
「もうッ!あたしお腹空いたからなんか買ってきて!」
「…俺をパシる気?」
「たこ焼き!あとジュースも」
「……」
篠宮 莉央はすっごくめんどくさそうな顔をしながらも買いに行ってくれた。
それからあたしたちは花火が見える場所へと移動した。
「ねぇ…あたしここに座るの?」
「普通に考えてそうだろ?」
「…無理だから」
「は?」
「浴衣汚れちゃうし…あたしここ座れない」
「意味わかんねぇよ」
地面から1m程高くなっているコンクリートでできたそれは座るには丁度いいんだと思う。
「あたしをこんなところに座らせるなんてありえないから!」
「お前…お嬢様にも程があんだろ…」
そう言う篠宮 莉央はもう既にそこに座っている。
「あたしは立ってるわ…」
立って花火を見るなんて最悪…
だけどここに座る訳にはいかないし。
なんでシート忘れちゃったんだろ…
「「はぁ…」」
ため息がかぶったと思ったら…
すとんッ…
「ッ!?」
腕を引かれて篠宮 莉央の…
あたしは篠宮 莉央の、膝の上に座っていた。
「ちょ、ちょっと!これなんなの!?」
「これなら浴衣、汚れねぇだろ」
「そ、だけど…」
でもでもでもッ!!
これはいろいろとマズいんじゃ…
周りにも人はたくさんいるけどこんな座り方してる人なんていないし!
いや、その前に人前でこんな…
恥ずかしすぎるッ!!
「…ッ///やっぱりあたし立ってる!」
立とうとしたのに…
篠宮 莉央の腕がお腹辺りに回ってきて…
「浴衣、似合ってるじゃん」
耳元で囁かれた…
「ッ///」
「顔真っ赤…」
耳元で囁かれたら誰でも真っ赤になるから!
別にあたしが篠宮 莉央のことが好きで真っ赤になった訳じゃないんだから!
あたしがこいつのこと好き、だなんてありえないことなんだから…ッ!!
「重く…ない?」
膝に乗っけられているからには聞けずにはいられなかった。
「お前、自分が重いと思ってんの?」
「全く思ってない!」
「なら聞くんじゃねぇよ」
「う…」
しばらくして花火があがり始めた。
花火綺麗だね、とか今のあたしにはそんなこと言う余裕なんてない。
だってさっきから心臓がヤバすぎるんだもん。
篠宮 莉央に触れているところが熱い。
気を紛らわすためにたこ焼きを次から次へと口に運んだ。
そんなあたしを微笑みながらじっと見つめている篠宮 莉央。
…微笑みながら?
篠宮 莉央は普段から無愛想であんまり笑うことがない。
そんな奴がなんで今微笑んでるのよ…
ていうか、食べてるところをじっと見られるなんてキツすぎる…
「もうお腹いっぱい!あと全部食べて」
視線に耐え切れなくなりたこ焼きを半分篠宮 莉央に差し出した。
「食わせろよ」
「は!?」
「…できねぇの?」
「…ッ、できるわよ!!」
この凛李愛様にできないことなんてないのよ!
「なら早く食わせろよ」
「……」
大丈夫よ。
これくらいできるんだから。
「…はい」
あたしはたこ焼きを1つ串に刺して篠宮 莉央の口へと運んだ。
…///
なんかこれ…
恋人同士みたい!
周りから見ればあたしって彼氏の膝の上に座ってたこ焼きあーんってしてる彼女よね…
悪くない、かも…
って!
何考えてんのよ、あたし!
こいつの彼女なんて絶対嫌なんだから!!
あーもう!
落ち着かない!!
心臓うるさい!!!
膝の上に乗ってるだけなのになんでこんなにドキドキしてるの!?
こんなのおかしい!
いつものあたしじゃない!!
平常心…
平常心、平常心…
「…ッ!?」
落ち着かせようとしていたら、うなじに何かを感じた。
な、に…?
「男ってさ、うなじ好きじゃん?」
こいつか…(怒)
「まぁ、よく聞くわね」
「俺さ、どこがいいのか全然理解できない」
「ちょっと!!」
人のうなじに指這わせといてそれはないでしょ!
失礼にも程があるわ!
「けど…今理解できた」
「…は?」
何、言ってんの?
意味わかんないわよ…
「まぁ相手が……かもな」
「え、何?今聞こえなかった」
花火の音で聞こえなかった言葉。
もしかしたら…
いや、もしかしなくてもそこ、1番大事なとこでしょ。
「……」
「ねぇ、もう1回言ってよ」
「やだ」
「は?えッ!?あ、ちょっと///」
「…お前今日いつもと香水違くね?」
「…ッ///」
篠宮 莉央の頭が…肩に乗って…!!
「き、気分的に…変えてみたの!」
「ふーん…」
なッ!?
反応薄!!
自分から聞いてきたくせに!
てかなんで今日いつもと違う香水だってわかったのよ…
もしかしてこの香水においキツかった?
やっぱりいつもの香水にしてくればよかった…
「別に今日の香水がキツいとかそういう訳じゃねぇから」
「ッ!?」
なんで心読まれてるの!?
「どうしてわかったの?」
あたし口になんか出してないわよ?
「お前すぐ顔に出るから」
「そ、そんな訳…」
「あるから」
う…
「凛李愛ーーー!!」
遠くから微かに聞こえた聞き覚えのある声。
「この声って…」
「凛李愛!って、何してんの…?」
「2人共…いつの間にそんな…」
「琉生!?奏汰!?」
あたしは慌てて篠宮 莉央の膝の上から降りた。
「ち、違うから!!」
「何が"違う"の〜?」
奏汰…
顔がニヤニヤしてる…!
「これは…その…あれよ!」
ヤバい…
こんな…
あたしが篠宮 莉央の膝の上に乗ってたなんて…
こんなのまるであたしたちが仲よくなったみたいじゃない!
「凛李愛…?」
「…〜ッ!!」
琉生…
そんな悲しそうな目しないで…!
「だから…こ、こいつが…」
もうッ!
こうなったら…
やけくそなんだから!!
「こいつがあたしの尻に敷かれたいって言うからッ!」
「はぁ!?」
「「え…」」

