‐彼と彼女の恋物語‐




少しの言い合いの後、渋々。心の底から嫌そうな顔をして携帯の画面に綺麗な指先で触れた。



《…………はい》



酷く不機嫌そうなその声に向けられた本人でもないのに間近で聞いているせいで身体が強張る。


それに気づいたのか空いてる手はなだめるように背中を撫でていく。それもとびきり優しく。



《は…》

《意味わかんない》

《知らない》

《うるさい》



話し声はぼそぼそと最強に聞き取りにくいが返事からして熊谷さんだろうと察する。


仕事の話だろうと邪魔しないように黙って大人しくすることにした。



《本当に何なの》

《別に》

《知ってるよ、質悪い》



彼女が胸元で黙って聞いているかぎり彼は相当ご立腹な様子。しかも徐々に言葉が強く、いつもの彼とは違うひとにも見える。



《早くしろって》

《そんな時間ない》

《うるせぇーよ、とりあえず明日呼んで》