バタン、荒々しく閉まったドアにそのまま背中からずるずるともたれ掛かってしゃがみ込む。
左手に残る彼のリアルな温もりに酷く、泣きたくなるのは何故だろう。
「先生…」
何時。いつまで、あの部屋に通えますか。いつまで笑ってくれますか。いつまで抱き締めてくれますか。いつまで、手を繋いでくれますか。
答えなどあるはずもない問いは無垢な空間に消え去る。込み上げるそれに我慢しようとして、止めた。
泣いても泣かなくても、何も変わらないことに気づいたから。
そう実感してしまえば込み上げては溢れて外気に触れる、涙。ぼろぼろと情けないくらいに零れていく。
「せん、せ…せんせっ…」
心臓が跳ねるせいで喉がつかえて言葉が嗚咽混じり。彼女はただひたすらに涙を流すだけだから。それはずっと続く。
漸く涙が止まったのはきっと数時間後だ。いくら泣いたのか、どれたげの声を上げたのかなんて記憶にない。
小さな玄関で膝を立てていた彼女は小さな息を吐き出すと、床についた手に力を入れて立ち上がる。
バサバサと音が立つような乱暴さで履き慣れたスニーカーは重力に従って落下していく。

