何年か前に、彼らは離婚した。子供が足手まといとなった父は私を母に押し付けて出ていった。
大手の社長だった父には別の女性がいた。離婚の時には既に二歳になる娘もいたらしい。
中学二年生という酷く人間的に不安定な時期に、支えてくれるひとがひとりになった。
だからといって別に母子家庭が珍しいわけでもなかったので、私は母からの愛情をもらえればそれでよかった。
ただそれだけで生きていけた。
ひとりじゃないから。
『あたしが愛してるのはあのひとなの!お父さんを愛してるの!―――…小音さえいなかったら!』
そう狂気的に叫ぶ母を目の当たりにするまでは。
母は、女だったのだ。ただひとりを愛する女だったのだ。
『小音なんかがいるから、幸せになれなかった』
日常的に言葉を押し付ける母を救ってあげられなかったのは他でもない私。母を不幸にした原因なのだ。
それでも、たったひとりの母を失いたくなくて。自分なりに一生懸命になった。
家事も手伝ったし、学校の行事だって自分で無理矢理済ませた。なるべく負担をかけないように。
なのに。
母は。
目の前で死んでいた。

