彼女が求めるなら許容範囲いっぱい、むしろ溢れるくらいのものを与えて与えて与えて。彼がいなくては生きていけないくらい。
どっぷり、寄りかかってほしいのだ。
「愛してんだよね、コトが思ってる以上に」
先ほどからいとも簡単に、躊躇など微塵も感じられないほどさらりと愛の言葉を並べる彼の瞳は、真っ直ぐに見つめている。彼女を。
その視線の熱に、促されるように口が開く。言葉が流れる。
「……怖っかった、愛されてるってわかっていても、自惚れだったら、後戻りできなくなったらって不安で」
「うん、確かに怖いね」
「だったら…愛されてるなんて思わなかったらいいんだと思って、ごめんなさい…」
「いいよ、これからがっつりそう思ってくれれば」
「ありがとう、ございます」
彼女にしては珍しくはっきり、饒舌に伝えられた真意よって、彼女がどれほど彼を思っているのかが十分伝わってきた。
「こちらこそ、気持ち教えてくれてありがとう」
質問はこれで終わりにするね。優しい微笑みに頷けばふと視界にはいるそれ。
「ケーキ…買ってきてくれたんですか?」
「あ、そうだ。食べられないなら無理しなくていいからね」
「たぶん、つわりなので…明日いただきます」
「そっか、そうだよね。具合悪くなったりしたらすぐに言ってね」
「はい、ありがとうございます」
なんでケーキ買ってきたんだっけ。と考えて時計に視線を向ける。時刻は夕食時などとっくにすぎた夜。
あと小一時間で日をまたぐ。
「こんな遅い時間まで起きてちゃ身体に悪いね」
「そんなに遅くはないですよ…?」
「妊婦さんなんだから、ね?」
「……わかりました」
寝室に移動しようと立ち上がる彼女。しかしそれを阻止した彼は軽々と彼女を抱き上げてベットまで運んでしまう。
「自分で、行けます」
「いいの、妊婦さんなんだから」
「……………」
甘い笑顔でそういう彼に彼女は内心ため息を吐く。どうやら相当な過保護になるであろうこれからの生活が多少心配になった。
しかし、同時に感じる愛。
「(……これが、愛されてる)」
誰かに愛される、誰かを愛するということが、こんなにも心を温かくしていくこと。教えてくれたのは全て彼。
「敬さん」
「んー?」
「……愛してます、この子とこれからも、よろしくお願いします」
「………了解しました、奥様」
少し目を見開いたかと思うと惚けんばかりの笑みで答えた彼。
その内心はというと…。
「……(やばいだろ、可愛すぎ。)」
これから訪れる賑やかな日々と、彼女のたまにしかみれない甘えにこの上なく喜んでいた。
きっと、もう、大丈夫。
だって、愛されているんだから。
-彼と彼女の愛物語-