それから3日後の夜。熊谷さんに呼ばれ出版社へと出向いていた彼は予想以上に遅い帰りに憂いでいた。


せめてもの詫びにと、彼女が好きそうなスイーツを手に部屋の扉に手をかけた。



「コトー?起きてるかな…」



彼にとっての最高の癒しが眠りについているのではないかという不安を抱きつつ、足早にリビングに行けばあと数分で夢の世界へ旅立ってたであろう彼女が呟いた。



「………おかえりなさい」

「ただいま、ごめん起こしちゃった」

「大丈夫です…遅くまでご苦労様でした」



身体と心を労う言葉に先ほどまでの疲労感が嘘のように消え去る。代わりに身体をつつむ幸福感。



「こちらこそ待っててくれてありがとう、コトが好きなケーキ買ってきたんだ」



テーブルに置いて箱の中を見せようと開けたその瞬間、彼女が口を押さえてキッチンに駆け込んだ。



「コト……!」



すぐにあとを追い、シンクに顔を向ける彼女の背中をさする。

最近の様子からしても体調が悪かったのかもしれないと思いすぐに病院に連れていかなかったのを激しく後悔する。


しばらくして落ち着いた彼女はまるで避けるように視線を合わせようとしない。



「ねぇコト、正直に言って。体調悪いの?」

「…………ごめんなさい」

「こっち見てよ、コト」



このまま聞き出さずにいたら彼女はきっと何も言わない。半ば無理矢理だが視線を合わせさせる。


顔色は悪くないことに安堵しながらも黙っていることに対する苛立ちと、それを上回る心配に顔が険しくなる。



「コト、言ってくれないとわからないよ?」

「…………はい」

「ここ最近ずっとこんな感じだけど、このままじゃだめ」

「……………」

「何も言わないんだったら、明日病院に連れてくから」

「敬さっ…!」

「無理矢理にでもね」



その言葉の強さに彼が本当にそれを実行するであろうということを悟る。そしてもう逃げることはできないということも。