だがそれは直ぐに離れて、まるでなにも無かったような雰囲気に一瞬にして戻ってしまう。



「もうすぐで終わりだから、待っててね」

「………はい」



その後も話しかけられれば適当に返事を返していた彼女。きゅっと結んだ唇に、迷いを表すかのように交差する指。



「(……足りない)」



足りないよ、キスじゃ。



脳裏に浮かぶのはキスより先の経験したことのない空想ばかり。最近、彼女は悩んでいたのだ。


ことの始まりはつい先日、山下あずさとショッピングした帰りに自宅で話していた時だった。



――――『クリスマスの過ごし方』


なんてありきたりな文字が大々的に載るそれは熊谷さんが「敬が載ってるから」と家に持ってきた雑誌だ。


それをパラパラとめくりながら、ぱっと目についた文字に思わずそれを閉じた。



「え、え、小音さんどうしたの」



一緒に見ていた山下あずさは目を見開きながら今日も騒がしく困惑気味。彼女はどうにもこうにも気持ちが落ち着かない。


なんなんだと眉を潜めながらも再び雑誌を開く山下あずさ。



「どうしたんで……あ、」



が、すぐにその理由は明らかとなった。


クリスマス特集と称されたそれには様々なデートプランや相手が喜ぶプレゼントなどが、世の女性のために紙面を飾っている。


そのなかでも一際目を引くそれは『自分をプレゼント』なんていう安いグラビアのような台詞である。