柔らかい、二人には充分すぎる大きなベッドに下ろされた彼女は既に眠りの序章へと足を踏み入れている。


毛布と羽毛布団を肩口まで掛けると彼はその隣に長身を横たえ彼女を腕の中に引き込んだ。



引っ越してからは毎日同じベッドで、半ば強引ではあるが彼の腕枕で寝るのが習慣になっている。


そして。



「ん…けぃ、さん…」



彼女が寝惚けながら胸に擦り寄るのも、またひとつの習慣である。


毎晩毎晩、すり減っていく僅かな理性をフル活用させて沸き上がるそれをなんとか抑えている。


本来なら結婚もしたし何の隔たりもないはずだが、中々現実そうはいかない。と、いうか。彼が自主的にそうならないようにしている。



理由なんて簡単すぎる。



「(大切に、したいからね)」



もちろん、彼女がそういうことにあまり知識がなく、経験もないことを考えた上でもある。


が。


それ以上に。


彼女は今まで少し辛い思いをし過ぎているから。



「(綺麗な思い出を、つくろうね)」



幸せを、とことん与えたいのだ。


もっともっと貪欲に、溺れてしまうくらいの幸せを。



「おやすみ」



軽く落とされたキスに夢現な彼女は睫毛を揺らす。言葉には出なかったけど、心で思う。



「(あなたがいれば、幸せです)」