「敬さん」

「あ、終わった?早いね」



ノートパソコンを叩いていたらしがきっとミーヤがじゃれたのだろう。開けっぱなしのそれは文字が中途半端に途切れている。



「お仕事ですか?」

「んーちょっとね、でもミーヤに負けちゃった」



酷く優しげな微笑みを浮かばせて腕の中で丸まった白猫を綺麗な指先で撫でている。その姿はまるでどこかのモデルのようだ。



「コーヒー、淹れますね」

「ありがとう、コトも休んでね。で、その後スーパー行こう」

「……スーパー……ですか」

「うん、なんか夫婦っぽくない?スーパーで買いものって」



結婚したら夢だったの。なんて素敵な笑顔で言われてしまったら照れてる隙もなく。



「わかりました」

「ご飯何にしようか、引っ越し祝いにケーキとか買う?」

「なんでも、…敬さんが好きなもので」

「コトが食べたいやつが好きなものだよ」



なんの考えもなくさらりと殺し文句を吐き出してしまうのは一種の才能だろうか。



コーヒーを淹れながら彼女は思う。



「……(好き過ぎて…困る)」



夫婦になった、彼と彼女の楽しい暮らしの始まりだ。