「(聞き流してる…)まぁいいよ、とりあえず行こ。寒いでしょ」



吐き出した息の白さに瞳を細める彼は、トランクを閉めるとドア付近で佇む彼女の小さな手を拐う。



「あの…敬さん、大家さんに挨拶とか…」

「そんなの後でいいよ、落ち着いたら~ってやつ」

「……………」

「はい乗ってー」



新手の拉致だ。と、非難めいた視線を向ける彼女に爽やかな笑顔を返す彼は強引に彼女を押し込む。



「早く部屋で二人きりになりたいの、だから行こ」

「――――…(そんなこといわれたら)…――はい」



答えは決まってる。



車内、彼女がふと思想を巡らす。



「(そういえば…)敬さん」

「んー?」

「―――ベッド、棄ててませんでした?」

「………あ、うん。バレた」

「(確信犯か)いいです、丁度買えどきできたし」

「は、いや、違うから」

「…………?」

「一緒に寝んだよ、一緒に」



二回も言って強調されたそれに眉間に皺を寄せる彼女は険しいそのままで彼を見た。



「嫌ですよ」

「コトの意見は却下」

「なんでっ…!」

「夫婦は一緒に寝んの」

「でも!」

「はい終わりー。もう着くから話はまた後で」

「(確信犯……!!!)」