何かを思い出すように目を一瞬だけ細めた彼女に何かを察したらしい彼はいつもの優しい笑みを浮かべる。



「いいよ、何かあったら家に医者呼ぶから」

「―――――」

「その代わりバイトは休むこと。優子さんに言っておくから」

「…はい」



そっと彼女の華奢な肩に腕を回し抱き寄せれば戸惑いながらも身体を預けてくれる。



しばらくそのままでいると、それ特有の軽快な機械音が小さく響いた。



「37.6℃、か。まぁまぁだね、ご飯食べて薬飲めば大丈夫」

「すいません…」

「いーから、とりあえずお粥くらいなら食べれるよね」

「はい」



じゃあちょっと待っててね。そう言った彼は身体を起こし彼女の前髪にキスをするとキッチンへと爪先を向ける。



が、すぐに彼女に向き直ると後付けのように言葉を発した。



「治ったらここに引っ越しね。一緒に住むから」



決定事項だと言わんばかりの笑みを作って彼女が何かをいう前にと足早にキッチンに逃げる彼。



眉を寄せて思考を巡らせワンテンポ送れながらも理解する彼女の頬は心なしか少し赤みが差している。


果たしてそれは熱のせいなのか、そうでないのか。知る者はいない。



ただ、ひとつ言えるのは



彼女の風邪は近づき始めた距離をぐっと縮めたのである。



「(あー、可愛い。冷えぴた貼ってるコトとかまじ堪えらんないわー)」

「(引っ越し……えっと、冷蔵庫とか、ベッドとか)」



とにもかくにも、彼と彼女は幸せなのだ。