小さなアパートの前に車をつけ荒々しくドアを閉めれば静寂とした朝の空間に妙に響く。



しかし今の彼はそんなことを気にしているほど周りを見れていない。彼は適当に着てきた上着に手を突っ込んでそれを手にする。



ガチャガチャと安っぽい扉の鍵穴に乱暴にそれを挿し込むと破壊するような勢いで開けてみせた。



「コト…っ…」



ワンルームの物が極端に少ない部屋のなかに存在するシングルベッドの真ん中に、ぽつんと座る眠そうな彼女。



毛布に包まれきょとんとした表情でこちらを見つめていた。



「………敬、さん…?」



あの日から数日、“先生”という呼び名から半ば無理矢理だが名前で呼ばせるようになり、彼女はぎこちなくそれを口にする。



雑に靴を脱ぎ捨ててベッドに近づくとまだ寝起きなのか視野が定まらずぼーっとしている。

しかし近づいてわかるのは寝起きのせいだけじゃないということ。



毛布に包まれた彼女を引き寄せて額や首筋に自分の手のひらを当ててみる。



「(熱もあるな…)……ッチ」



確かに伝わってくるいつもより高い彼女の温度に彼は静かに悪態をつくと、熱のせいで涙目になり上目遣いの彼女をそっと抱き上げる。



毛布ごと抱き上げられた彼女は困惑しながらも拒絶するような気力はないらしい。