なんだか彼に流されてる感も否めないが、本当に大切そうに抱き締められてはこのままでもいいかな。なんて気もする。
そっと、気づかれないようにだけど身体を預けてみた。くすり、と見透かしたような笑みの気配がしたけれども聞かないふりをしておく。
「ね、コト。ジャケットとエプロン脱げば?」
「じゃあ離してください」
「脱がしてあげる」
お互い、もっと近くに触れたいとはまだ言えないのだ。
ジャケットとエプロンが床にふわりとサイドに掛けられ、距離が縮まった。瞬間、熊谷さん再びとも言える慌ただしい騒音が玄関口から聞こえた。
「あ、来た。ケーキ多めに買っといてよかったー」
そう独自に呟く熊谷さんはカウンターにある来たときに持っていた紙袋の中身をあさり始める。
がったがたと、騒々しさをますそれは勢い良くドアを開いた。
「―――…こんに、ちわ!」
見たことがある綺麗な顔が、息を切らせながら姿を表した。
「―――(山下、あずさ)」
彼女は目を見開いた。

