‐彼と彼女の恋物語‐




聞きたいことはたくさんある。否、あったはずなのに。どうしてか今になって言葉にできない。



それでも、伝えたい。

思いを。



「―――先生」

「ん…」

「先生」

「コト」

「抱きしめて、ほしい、です」

「――…(ああ、もう)」



少しだけ腰を上げた彼が影を造ったときには既に抱き上げられていて、気がついた時には膝の上に座るかたちになっていた。



「っ…(え、どうしよ、近い)」



ぎゅぅうう。と、腰と後頭部に回された腕が少し苦しいくらいに力を込めている。

そのせいでいつもは着痩せしてみえる胸板の男らしさが直に伝わってくる。



どき、どき、心拍数が上がっていくのを感じた彼女は肩口に顔を埋める彼を下から覗きみる。


顔が物凄く近くにあることを自覚させられる。一気に頬に熱が集中していく。



距離を取らなければ、と能が指令を出したそのとき。



「みゃー」



ひとり用のソファーに向かい合って座る二人の横に音もなく現れた、白猫。



「……ミーヤ?」