3回、その手が背を撫でると身体から温もりが離れた。
一歩後ろに下がる優子さんを見つめると気の抜けたような表情をする彼女を見て微笑む。
数秒程、時が流れる。
そして、
「自分を愛しなさい」
その一言にはっとする。暗闇を割くように一筋の光が奥深くから輝いていく。
「(ああ、行かなくちゃ)」
ちゃんと伝えなければ、ううん違う。自分が、彼と先生と、話がしたいと思ってるから。
迷わず踵を返し店内へと続く扉に向かって手を伸ばす。開く直前に彼女は少しだけ振り向いた。
「優子さん、明後日来ます」
はっきりとした声音でそう言うと小さく頭を下げて急ぐように力いっぱいノブを引いた。
背後で、優子さんが笑った気配がした。

