「…橘は、桜が好きなん?」

「え?」

「あの時も見てたやん。…桜」


あの時って…。
私が轢かれそうになった、初めて川口くんと話したあの時?


「…うん、好き。桜って、綺麗なんだもん」


目の前で、桜の花びらが落ちていく。

桜は、日本人にとって特別な存在。

でなければ、春が近くなっても『桜前線が〜〜…』なんてやらないはずだもん。


「…あっ。川口くん、知ってる?」

「ん?」

「落ちてくる桜の花びらを、地面に着く前に片手でとれると、恋が叶うんだって!」

「…なんやそれ?聞いたことあらへん」

「やってみようよ」



返事を聞く前に、私は桜の花びらを待つ。

…でも、これだけ散ってるんだもん。
1つくらいは取れるはず…!



「あっ!?」

取った?

……取れなかった。


次の花びらだっ。



「やっ!」


…ダメだぁ。
取れない……。




「…橘は、好きな人おるん?」

「えっ!?」



あっ!
花びら、掴めそうだったのに…。


暗いから、余計見えないんだよなぁ…。


って、なんだっけ?




「好きな人?」

「おらんかったら、そんなに必死にならへんやろ」

「あ…、そだね……。まぁ、いる」



ていうか、ついさっき自覚した。