「オーダーお願いします!」
仕事が始まると、不思議と余計な事は考えなくなる。
それに今日は、朝倉さんがホールにいないからかな。
…泣いちゃったこと、あとでちゃんと謝らなきゃな。
カランカラン
「いらっしゃいませ!」
お客さんが来て、私は顔を上げる。
―――そこには、玲奈さんの姿があった。
…なんで?
「…おひとり様ですか?」
「はい、そうです」
玲奈さんは、私には気づいてないようだった。
綺麗な笑顔で私を見ている。
「こちらへどうぞ」
落ち着いていた気持ちはどこかに飛んでいき、動揺が私の中に広がる。
朝倉さんに会いに来たの?
やっぱり、2人は付き合ってるの?
「…ねえ。ここで働いてる、朝倉って人、どこにいるか知らない?」
―――ズキッ、と、心臓が掴まれたように痛い。
「しょ、少々お待ちください…」
朝倉さんを呼ぶ理由は、なんですか?
そう聞きたかった。
でも、聞けなかった。
怖い。
玲奈さんの口から本当の事を聞いてしまったら、私はどうなっちゃう?
大して動いてないのに、動悸が激しい。息切れする。
私はキッチンに行って、朝倉さんを呼ぶ。
「ん、柚稀ちゃん?」
「あ、朝倉さん…。今、玲奈さんが――…」
あ、やばい。
目の前が真っ暗で、頭がくらくらする…――――。
―――朝倉さんの声が、遠くなる――…。



