私と彼が出会ったのは、今から7年前。

私たちが、高校2年生の時だった。


「加藤 柚稀です。これからよろしくお願いします」


知り合いの紹介で始めたカフェでのバイト。

でも、私は接客は好きだし、将来は接客業に就きたいと思っていた。


けど、初めてのバイトだから、やっぱり緊張はする。


「柚稀ちゃん、緊張してる?」

初めてのバイト。

緊張をほぐそうと深呼吸していると、声をかけられた。


振り返ると、そこには優しい笑顔。

私の教育担当の、朝倉さんだった。


「…はい、ちょっとだけ」

「ダイジョーブダイジョーブ。そんなに固くなってたら、初日から疲れちゃうよ?」

「は…、はい」


固くなるなと言われても、やっぱり緊張はしてしまう。

ヘマをしたらどうしよう?
お客さんにクレームを言われたらどうしよう?

不安がぐるぐると渦を巻く。


すると突然、朝倉さんが私の頭を撫でてきた。


「最初は緊張するよ、誰でも。俺だって、最初はガッチガチに緊張してたし、失敗した事もある」

「朝倉さんが?」

「一番派手にやったのは、中身の入ったコーヒーカップをひっくり返したやつかなぁ」


いつも笑顔で堂々としている朝倉さん。

朝倉さんの存在は、私がここでバイトをしたいと思った理由でもある。

朝倉さんの接客で、お客さんが笑顔になる。

私も、そんな人になりたいと思った。


そんな朝倉さんが、カップをひっくり返してたなんて…。


「柚稀ちゃんは大丈夫だよ。俺と違って真面目そうだし、丁寧だし」

「そう見えますか?」

「え、違うの?」

「さぁ、どうでしょうか」