夜風は嫌いじゃない。

特にこんな、
夏の名残が残る日。
少し湿っぽい、
ひんやりした感じ。


目を閉じる。
足を止めて、上を向く。


いい風。好きだ。


前を向いて歩き出す。





…あれは、誰?


前の方で誰かが、
自転車を押す形で
止まっている。



――――振り返った。



寂しげな瞳。



動けなくなった。




そして、彼は前を向き、
歩き出した。




私も、ようやく動いた足を動かし、
歩き出す。



あの人は、確か…


みんなにマサミ、と
呼ばれていた。
自分から話すことは
あまりないようだった。
でも、輪の中では、
方頬にえくぼを作り
微笑んでいた。



マサミ…


私とマサミは、
一定の距離を保ったまま、
静かな夜風の中を
歩いていた。