普段使わない頭で考える。
きっと誤魔化すことは出来ない。
池波くんは鋭い男だ。
女の子のちょっとした変化でも見逃さない出来た男。
でも――
今は、そんな長所、ただの厄介者にしかならないのだが。
「えっと…おはよう?」
ああー…やってしまった。
これじゃあ、認めたようなものだ。
私はプライベートではダメ女だと。
嫌な妄想が頭の中をいっぱいにする。
それは、月曜に私が出勤する頃には、私の噂が飛び交っていて、上司にも先輩にも同僚からも、後輩からでさえ、嫌みを言われるような毎日。
今の私の頭の中は、被害妄想でいっぱいだ。
『あ、これ…引越しの、』
「え、…あ…ありがとう、」
目の前にいる池波くんは、こんな私を前にしても至って普通に紙袋を渡す。
私も動揺していることを悟られぬようにその紙袋を受け取った。

