溺愛男子

 信号は青になったのに、進まず…進めず。



「うっそ…。落とした…?」




 来た道を急いで戻り、暗くなりかけている道に目を凝らす。




「…どうしよ……」




 焦りまくっている私に、大家さんに頼むなんて案は思いつくはずもなくひたすら探す。






「…どうかしました?」

「ひゃっ!!!」


 後ろから肩を軽く叩かれて、異常なほど反応してしまった私。




「…え」

「あ、すいません…」

「いーえ。何かお困り事ですか?」



 振り向くと綺麗な女の人が立っていて、私に笑顔を見せた。






「…私に…聞いてるんですか…?」

「? そうですよ…? 落し物?」

「あ…はい」



 久しぶりに誰かの笑顔を見た。




 すごく綺麗な人……。




「私も一緒に探すよ? 何を落としたの?」

「…鍵を……。でも大丈夫ですよ!!」

「…鍵って家の? もう、暗いわ…」