溺愛男子

 *琉side*



「…なんで手放したんだろう……」




 そう聞こえた。




 すぐ前を見るとさっきまで見てた背中が見える。




「…皐月?」




 小さくうずくまってたその大きな体は立ち上がってこっちを見る。




「琉…?」




 思った通り、さっきまで話していた声が返ってきた。





 暗くて顔まではよく見えないけど、涙声のようで放っておけない。






 だけど、皐月がしゃがみこんでいた目の前の建物を見て少し止まる。




 俺が近づいてこないのを見て皐月から近づいてきた。




「…やっぱり琉じゃん。こんなところでどうしたんだよ」




 そう言いながら俺の顔を覗きこんで笑う皐月の笑顔は痛々しい。