溺愛男子



「…なぁ…」

「…え?」



 振り返っていた俺に話しかけてきた奴。






 ―――――皐月。



「お前って杏里の男だよな」

「…違う」

「そうだろ!? 昨日一緒にいたじゃん」

「…違うって」




 もう違うんだよ。





 その名前を出さないでくれ。





「…何、泣いてんの?」

「泣いてねぇよ」

「泣いてるだろ!」

「雨だって、雨」

「降りそうだけど降ってねぇし」





 何かと文句をつけてくる皐月。





 こいつが杏の愛した男。





 そう思うと苦しい。