溺愛男子



 俺は少し前に立っていた杏を抜いて先に歩いた。





 杏が少し走らないと追いつけないスピードで。







 杏から離れると涙が溢れてマジで止まんない。








 思った以上に杏の存在は大きくて、埋める物が思い当たらない。







「んなんのじゃ学校いけねぇじゃん」





 学校までは来たけど、そのまま通り過ぎてしまった。






 …追いかけてこねぇよな。






 ずっと振り返れなかったけど、そっと後ろを見る。






 同じ制服の奴らが俺と反対方向に歩いて行くのしか見えない。






 こっち方向に歩く奴は誰もいない。





「だよなぁ…」