「何か?」


 笑顔で俺に用件を聞いてくる男が杏を隠すように身を乗り出した。





「…杏……返して」

「…杏?」

「その子……俺の女なんだけど」



 男の後ろに乗ってこっちを驚いた表情で見ている杏。




 よかった、無事だ。





 まだ離れて1日も立っていないのに本当に久しぶりな感じがする。





「あー…この子?」

「そう。返して」

「ダメダメ。黒田透の娘でしょ? あの男の借金肩代わりしたんだから私たちが何しようが勝手でしょう」



 少しだけ小皺が目立つ男はにこりと不敵な笑みを浮かべた。




「…肩代わり…?」

「そうだ。あの男も酷いよねぇ。そんな奴娘じゃないから、俺が知ったことじゃない。早く連れて行って俺を解放してくれってさ」



 相変わらず笑う男は目だけは笑っていない。