溺愛男子


 暫くしてもう一度アパートに目をやると男は居なかった。





「こえぇ…」




 携帯をポケットに戻して一度その場を離れる。





 杏があの部屋の中にいるかどうかもわからないけど。






 あの男が居場所を知ってるのは間違いない。







「すいません…」

「はい?」




 近くの道を歩いていた男の人にあの男のことを聞いてみる。




「あのアパートに住んでる黒田さんってどんな仕事してるか知ってますか?」

「…黒田ってあの……娘さんが行方不明の?」

「はい」

「…たぶん無職でしたよ。生活費とかどうしてるんでしょうね」



 少し変な目で見られたが、杏を助けるためには何でもするって言っただろ?




 こんなの大したことねぇ。





「ありがとうございます」




 お礼を言って男の人から離れる。