溺愛男子

 紙に書いてある住所のところまで行くと、さらに静かだ。




「…ここ、だよな…」



 本当に小さなアパート。




 こじんまりしてて、杏の生活が予想できてしまうくらい。





「…ちょっと、あなた!」

「え?」



 知らないおばさんに声をかけられて振り返る。




 怪訝そうな顔でアパートを見た後俺に目線を戻す。




「ここは近づかない方がいいわよ! ここに住んでいたあなたくらいの歳の女の子が行方不明になってね。父親が殺したんじゃないかって話よ。借金取りもうろついてるし危ないわよ」



 おばさんはそう言うとアパートの入口を見て、はっとした表情で去って行った。





 アパートの入口に何かあるのか?





「…!」





 俺もアパートのほうに目をやると髭を生やし、まるでホラー映画に出てくる何かにとり憑かれたような男がじっとこっちを睨んでいる。




 杏の親父さん…?





 俺は見なかったように目線を外し携帯をいじるふりをする。