「嫌です」



 杏の少し高くて心地よい声が夜道に響く。



 車の中から手が伸びているがたぶん男の手。






 ――――――スーツ……?




 助手席に座っていたであろう男が1人降りてきた。





「ちょっ!!! 離して!!」




 おいおいおいっ!!!




 完全に妖しい黒尽くめの男が杏の腕を掴んだ。




 急いで杏の元に走る。





「透さまがお待ちです。抵抗するならケガを負わせても連れて来いと言われていますから」





 低い声が聞こえた。





 透……?





 急がせていた足の速度を少し落とす。