溺愛男子


「もう一度言う。杏を返せ」

「嫌だ。ずっと一緒なんだよ。これからも…」

「杏は望んでない」

「俺は望んでいるんだよ」



 近づいてくるパトカーに逃げる気はないのか私に笑顔を向ける。




 もう息が上手く出来なくて浅い呼吸を必死にする。




「ひくっ……」



 少しでも酸素を。




 溢れてくるのは涙。




「杏里、愛してるよ」

「おか、しいっ…ひッ…く」

「どうして? きちんと愛してあげてるじゃないか。俺の愛が伝わないか…?」



 私を抱いている手が震え始める。



「好きな奴の幸せを願うのが愛じゃねぇの? それ、ちげぇよ」



 琉は真剣な表情で言った。




 黙ってしまった工藤さん。




「…俺の愛はおかしい…?」





 長い沈黙の後小さな声が聞こえた。