溺愛男子




「あ、杏ッ!!!!」




 もう半分諦めかけていたときに大きな声が聞こえた。




 震える体を振り回すように工藤さんが振り返った。





「…君は……」

「杏をどこに連れてく気だよ!!!」



 急いで走ってきたのか息が切れている琉は壁に手を着いて呼吸を整える。




 ちょうど来たエレベーターに急いで乗った工藤さんはボタンを連打して閉めようとする。




 すぐそばにいた琉は簡単に乗りこんできた。




「杏を返せ」

「もともと君のじゃないよ、俺のだ」

「杏震えてるじゃねーか」



 怒っているような冷静のような…とにかく無表情の琉は工藤さんの胸倉を引っ張った。




「君が来たからでしょ」



 こっちも恐ろしいほど無表情で私に込める力を強くする。




 足を骨折して立てない私は工藤さんの手から逃れることも難しい。





「……あ、そ…」




 もうすぐエレベーターが到着してしまう。