「…黒田杏里ですけど…」

『…はぁ? 琉君は?』

「…琉は…?」



 チラッと俺のほうを見た杏里は何かを感づいた様子だ。




 たぶん俺の嫌そうな顔で分かったんだろう。




「琉は今、お風呂に…」

『お風呂ぉ? 可愛い彼女が待ってるんだから早く帰ってきてって言ってくれない?』





 嫌みたっぷりな甘ったるい声が聞こえてきた。




 誰が彼女だよ…。





 おじさんの娘だから強くは言えないけど…。





「代わって」





 俺は杏里からケータイを受け取って耳に近づける。





 まだ杏里の眼は赤くて涙が溜まってる。




『琉君~?』

「そうだけど」

『早く帰ってきてよぉ~』

「なんで?」

『パパの出張が早くキリがついちゃって今日でお別れなの~!! 音寂しいよぉ』