「ね、雄介。五十メートル走でさ、昼飯賭けない?」

理沙の件から何日か過ぎていた。

体育は相変わらず暇すぎて、少し動きたくなった。

今日は天気が良くて外でやっているから余計かな。

「は?冗談じゃねぇよ。奢らせようとしてんだろ。そうはいかねぇぜ。それより、ほら、バレーの試合出て来いよ。」

週一の体育は、これが今年度最終日。

今週は二クラス合同の、バレー大会。

僕は勿論、バスケ部の次期部長の雄介はやる気ゼロ。

僕らのとなりには何故か、かおり。

「かおり、お前もやってこいよ。」

「無理。才能無いから。」

「才能の問題じゃないだろ。ただ、やる気がねぇんだろ。」

「自分はどうなのよ。」

かおりが顔をしかめる。

「じゃさ、かおりちゃんと僕で走るのやろうよ。」

「ハンデくれるならいいよ。そーね、三秒か四秒くらい。」

「三秒ならいいよ。」
 
僕の五十メートルは、六秒台。ぎりぎりかおりに勝てるかな。

「俺、かおりにジュース一本。良太は?」雄介がいつの間にか試合に負けて戻ってきた良太に言った。

「あ、ずりぃな。じゃいいよ、俺は尚に牛乳一本。」

「え?ぎゅーにゅーはやめようぜ。」

「勝手に僕達で賭けないでよ。アホ面諸君。」

雄介がスターターで良太がゴールで見る係りになった。

「三秒だからね。雄介ちゃんと時計みろよ。」僕は念を押す。

「まずかおりな。よーい、スタート!」

1・2・3・「スタート!」

あ。意外と五十メートルって短い。