クマゼミはまだ鳴いていないが、春も深まりつつある初夏であった。熊本の藤崎台県営野球場では夏の甲子園大会予選が始まった。
 朝から強烈な太陽光線がグランドを焦がしていた。開会式が行われた。そしてそのあと
一回戦第一試合が行われる。開会式で乱れた球場を整備し、水が打たれた。藤崎台球場は阿蘇の火山灰を使っているため、暗い褐色であった。そして一回戦の第一試合。開会式直後の試合で、観客は多い。開会式に出場した選手などが、終わった後そのまま観客席に残って見てゆくのだ。                                三塁側に陣取ったのは熊本学院。熊本市内にある甲子園常連の名門校である。ブラスバンドと応援団つきの地方においては、いわば洗練された応援を行っていた。そのためか試合の始まる前から、高校野球モードを否応なく盛り上げていた。            一方の一塁側は天草灘高校。遠来で慣れないこともあり、1塁側応援席は野球部の保護者と学校関係者がちらほら。応援団も編成できないと言うさびしい光景だった。戦う前から負けるとあきらめていたのだろう。それは地方チームに対しては悪いが無理もない。  しかしこのチームの選手、監督、部長、一部の熱心な保護者は、あきらめていなかった。
 最近の練習試合では、負けはほとんどない。それほどの上々の仕上がりだったからだ。もちろん相手校にもよるが・・・攻守走そろった好チームになっていた。
 サイレンがなった。両校の試合前の練習が始まる。
 ここでも双方のチームに大きな違いが見られた。熊本学院は一つのポジションに3人ずつついて、交代で監督のノックを受ける。いかにも全国レベルのノックとそれを受ける選手の守備だった。監督は最初に三塁から始め、ショート、セカンド、ファースト。そして外野。最後にキャッチャーフライを打つのが恒例だ。
 しかし、これは難しい。特に観客が見ているせいもあるが、ノックのなかでも一番テクニックを要する。これを失敗して空振り、外野まで飛んだりすると、すかさず相手の応援団の野次が飛ぶのでうまくやらなければならない。
 熊本学院の緒方監督はさすがにベテランらしく、すんなりフライを打ち上げキャッチャーがとり、無事練習は終わり、選手は引き上げた。時間は制限時間ぴったりだった。