「こらー、そこ自転車二人はダメだろー! どっちか降りなさいー!!」
全校生徒、いや国民の憧れマドンナ花嫁先輩と二人乗りで、
先生の注意をシカトし、現役っぽく校門を過ぎる。
大人にとって他人に迷惑をかけるイタイ感覚は、十代の内はご馳走で、
例外なく君もご機嫌だった。
いつもは徒歩通学の玲ちゃんとバス停まで歩きの澪碧嶺とルルナ、
駅まで歩きの君が、のんびりゆったりダラダラまったり通る道も、
なんだか学校っていうお城に辿り着くメインストリートに思えてならない。
バス組は本数が多いから大丈夫だけど、君が利用する電車は四十分に一本の過疎線で、
放課後、競歩でちょうど良い感じでギリギリ間に合うのに、
お喋りしながらな皆の速度に合わせなきゃだから、いつも次のやつを待たなきゃで、
それだって、言えないけど立派な不満だ。
でも不思議、そんな嫌な気持ちを消し去るように、
花嫁先輩からはピンクの香水瓶っぽい良い香りが漂う。
「いやーいきなり抜擢の理由とか考えなくっても先輩が普通に可愛いからですよね。逆に今までなんでスカウト断ってたんですかぁー?」
可愛い後輩らしく背中に向かって話しかけつつ、
<学校の都合でバイト休むって店長によろしく>と、隠れてスマホをいじり、
「今頃テレビ出てたりしたんじゃないですー?」って、口先だけ動かし、
取り急ぎ仕事仲間にメールしておいた。
別に混まないよね、
店長いるしシフト大丈夫でしょ
女子高生って本当に携帯電話の達人で、
誰かと一緒に居ても誰かと会話中でも、意識が常に画面の奥に向かってて、
結局、リアルが誰と繋がってるのかなんて謎のままだったりなんかするが、
そこをイジるのは御法度だ。


