おとり化粧室


「朝の約束覚えてるー? 今から買い物付き合ってくれるよね? お願いお願い君チャンさんっ」


  え、本当だったんだ

  あー……

別に行っても良かったけど、いくらあの花嫁先輩でも、アポイントなしだとこっちにも都合があって困る。

だって、今日は週一、二でしてる無添加ベジナチュ的なお弁当屋さんのアルバイトだ。



反応が薄い後輩にハッとしたのか、

「あっごめーん、今日なんか用事あったのかな?! わたしったらごめーん! 無理なら全然大丈夫だよ〜」と、

可愛いと人気の先輩に、残念そうに明るく言われたら、

普通の女子高生ならどうするのかな?


『アタシ今日バイトがあるんです』

断るシーンべきなのに、なんか可愛いが必然の人を前にしたら、こっちが悪になる気分だった。

相手に有無を言わせない。
それだけ存在感のある生徒に、皆の物語にも思い当たる人物がいるはずだ。


『……なんか可哀想』
『アタシのせいで傷つくかもしれないよね』

そんな感情が心を支配し、無意識かな、

君は「行ってくる」と、ふあふあグループに宣言してしまっていた。



「先輩君チャンよろしくです」
「しっかりパシってやって下さいね」
「いいなぁ君チャン」

最初にルルナ、次に玲ちゃん、最後に澪碧嶺、皆が笑って手を振る。



さて、それと同時に生まれた気持ちは優越感で、

仲良しメンバーを背にした瞬間、君はまたスマホ戦士として新たな力を手に入れたようだ。

ほら、日々したたかに成長する君は立派でしかない。