おとり化粧室


一昔前、小悪魔しかける女子の鼻にかけた甘えたボイスを聞き飽きた男子狙いで、

『ちょと喉っらぃけどアタシ一生懸命話してるんだょッッ』って感じの掠れた声色を操る新キャラが居るのを、

果たして、学校の国で察知できてる生徒は存在するのだろうか。




「あー! 見つけたあ〜!」

二組の入口で絶叫してるのは、

三つ編みをほどいたように波打つ髪がふわりと膨らむショートカットが似合う女子高生、

セーラー服のスカーフはわざと下で小さくリボンを結び、

膝丈スカートから覗く足は細く、

真っ白な靴下がショートブーツみたいなダサくなりがち絶妙なラインで止まってる。


数秒の観察でオシャレだと思った。
可愛いと直感した。



「良かったあー、あなた君チャンさんだよねぇ??」


こっちに向かって手を振る侵入者に名指しで呼ばれ、

澪碧嶺に玲ちゃん、ルルナにひゅったん、矢尾君や雨季、

クラス中の皆が君に注目する。



「え、と……?」

慣れない環境に戸惑う相手に躊躇せず、「はじめましてー! よろしくねー!」って、

スキップする子供みたいな口調で陽気に自己紹介された。



ねえ、運命の出会いって日常にあるのかな?

ちなみに、今、君は人生の分岐点に立たされてしまっている。